【シンポジウム(報告)】
~あらためて森林の価値とは 原点に戻り問い直す~ 「森林と市民を結ぶ全国の集い2009」(主催:同実行委員会、(社)国土緑化推進機構)が2009年12月5~6日、「今あらためて問う“森の価値”」をメインテーマに、東京都豊島区の立教大池袋キャンパスで開かれた。
森林をめぐる状況はさらに深刻さを増し、市民の森づくりもステップアップが求められている。14回目を迎えた全国の集いは、両日とも200人余りが参加。原点へ立ち戻って議論を深め、森づくりの明日を探った。
▽揺れ動いた森林の価値 1日目のプログラムは午後1時に始まり、まず内山節実行委員長が開会の挨拶をした。「出発点は、森の価値を社会に訴えるのが中心だった。(訴えが)浸透すると同時に林業の危機、生物多様性やCO2の問題が大きくなってきた。森林の価値も社会の中で揺れ動いてきたといえる」と、テーマ設定の趣旨を解説。「これからどういう考え方に基づいて森林とつき合っていくのか、問い直せる場になれば」と今回の集いの位置付けを語った。
また原則として毎年、各地域をめぐる形で開いてきた全国の集いを2年に1回は東京で、間の年は各地で開催するという新しい方針を説明。「来年あるいは3年後はうちでやりたいという希望を連絡いただければ。そういうことも含め全国の集いを作り直していきたい」と話した。
▽何をすべきか発信の場に (社)国土緑化推進機構の梶谷辰哉専務理事は、国民参加の森づくりが提唱され20年余りになり、市民や企業の取り組みが大きく増えたことを紹介。「一方で森林の状況は相も変わらず手入れ不足。市民、ボランティアの役割が期待されてきている」とし「一歩進んで社会的な問題を解決するには、異分野や行政との連携が必要になってくる。そういう流れの中で、新たな第一歩を踏み出し、われわれは何をすべきか世の中に発信していく場にしたい」と会場へ呼び掛けた。
▽情報の共有を 全国森林組合連合会、(社)全国林業改良普及協会、(社)全国森林レクリエーション協会などから来賓が出席。林野庁の津元光森林整備部長は、林業の再生へ向け路網整備やフォレスターの育成などに取り組んでいると説明し「官民が森づくりを支援していく体制を整えたい。一つ一つの団体が抱える知恵や悩みがあり、情報を共有していくことは重要。今日、明日が一段高い森づくりボランティアの原点になるようお願いしたい」と話した。
▽市民の視点で森の価値を
内山さんが問題提起 続くシンポジウムは、まず内山節さんが問題提起した。
「あまり整理がつかない状態なのだが、話させていただきたい」と切り出した内山さんは「森林ボランティア団体を管理するのではなく、応援できることは応援するというスタンスで長らく来た」林野庁と良好な関係を築いた市民の側は「林野庁が言ったことをそのまま継承し、森の価値を提起する努力を怠ってきたのではないか」と指摘。「活動している市民の視点で、森の価値を提起できる関係になってもいいのではないか」と語って、森林の価値を考える視点を順番に挙げていった。
安藤広重が描いた版画から見て取れる江戸時代の山と、里山の利用。住んでいる群馬県上野村も80%が給与所得者という実情。「給与所得の村の人にとっての森の価値という視点もある」と述べた。
一転し「森だけを考えていて充分だったのだろうか。森の下を川が流れ、田畑があり、町があり、最終的には海の生態系がある。これを一体的に見てこそ、森の価値ではないか」と考察。比較的短伐期で焼き下駄材料のスギ材を生産してきた福岡・日田の林業を取り上げ「30年、40年生が密に植わっていて、あまりいい森には見えない。しかし日田の林業のあり方からすれば良い森。吉野では100年生の森があって、いかにも良い森に見えるが、全国でやれるわけでもない」と指摘した。
さらに間伐の問題を「放置したらどうなるのか。最終的には自然淘汰によって、本数は自然の定まるところに落ち着く。しかしその時間が膨大にかかることは間違いない。そういう意味で間伐は、自然淘汰を人間の力で100年の単位でやってあげるということ」と整理。「里山でいえば、手入れしなければ間違いなく自然淘汰がおこる。大きなケヤキやコナラが立って、森としてはいい森になる。でも里山的な景観ではなくなる」と述べ、あらためて「良い森とは何か、かつてははっきりしていた。ここからは柴を刈る、ここからは草を刈る。あとは多少建築材を取りたい。日田の森も出てくる木は秋田杉に比べればいい木ではないが、そこでは価値があった。いい森、いい木は地域によって、時代によって変わる」と語ったところで、全く違う切り口を持ち出した。
久々に訪ねた日光、山岳信仰の調査で行った立山連峰で見た「観光客の半分弱が日本人ではなかった」光景を紹介。「日本の自然そのものがアジアの人達、欧米の人達にとって価値ある存在になってきている。これも日本人にとっては初めてのこと。外国の人から見た森の価値を考えなければいけないようでもあり、あくまで地域の人達の森として見ていくべきで世界の人達に合わせる必要はないというのも一つの考え方。ただ、それを議論せざるを得ないのは確か」という考えを示した。
そして「林業と農業は組みあわせやすい業だった」と話題を転換、再び山村の視点を取り上げた。給与所得者が多くなって①行事などは土日にやらねばならず、山仕事の時間が取れない②家業を継ぐということがなくなった結果、森林や田畑を受け継いでいく意識も薄れた―という実態を紹介し「長期にわたって必要なものをきちっと地域でやってくれといわれても、受けとめられない。農山村はどのように変わってきて、どうつかみ直せばいいのか考えなければいけない」と訴えた。
最後に「今日、明日で結論が出るとは思わないが、いろんなことを考え、議論を深めながら、森林の価値をどのようにつかみ直していくか、私たちから提案していきたい。林野庁だけでなく地域、自治体にも提案することで対等なよい関係を築いていきたい」と締めくくった。
▽わたしたちは何を目指すか
パネルディスカッション パネルディスカッションはコーディネーターが山本信次さん(岩手大准教授)、パネリストに澁澤寿一さん((特)樹木・環境ネットワーク協会)辻一幸さん(山梨県早川町長)寺川裕子さん((特)里山倶楽部)をお迎えした。
主なやり取りは次の通り。(以下、敬称略)
山本:
森林ボランティアは森にこだわってきたが、視野を広げることが必要。江戸時代以来、林野面積は変わっていないが野の面積は小さくなっている。絶滅危惧種の70%が野にいる。森林整備が進むほど生息地は狭まっている。
澁澤:
「一次産業の知恵」が急速に衰えているのにがく然とし「森の聞き書き甲子園」を始めた。この取り組みで一番変わったのが高校生。甲子園を終えた高校生の半分は自然と関わる活動へ。地域での活動も始まっている。
辻:
現場の地元という立場で問題を話し合いたい。森や林業と関わって、初めて山村の価値はあるが、過疎と高齢化で働き手がいなくなり、もう山村は森とともに生きていけない。国民的な問題として取り上げないと。力を貸していただきたい。
寺川:
「好きなことして、そこそこ儲けて、いい山をつくる」がコンセプト。NPO法人化から「そこそこ儲けて」を意識し始め、里山商品の開発、薪を使ったコジェネシステムの研究も。いい里山とは何か模索中。
山本:
①いい森とは②山村で生きていくためにどうすればいいか③ボランティアはその一部を担えるか。誰が何をどこまで出来るか―の3つに論点を整理したい。
○いい森とは寺川:
答は出ていない。現時点でぱっと言えるのは生産物をしっかり出せ、生活の糧につながっていける山。
辻:
手入れが行き届き、生き生きしている森。そういった森は私たちに語りかけてくれる。
澁澤:
秋田に天保の大飢饉でも餓死者がなかった集落がある。共有林を年に1カ所ずつ伐り循環型で利用し、衣食住すべて山にあって田畑がなくても生きていけた。木だけじゃなく、生き物すべてバランスいい森。それで初めて生産力が上がってくる。
○山村で生きていくには山本:
そこそこ儲けてを実現できるのはなぜ?
寺川:
みんな山で食べていきたいと思っているから。森の恵みをどこから取るか、その術をメンバーが見つけてきた。
辻:
儲けてるというのは森を活かしているということ。素晴らしい。昔はみんなそうしていた。
山本:
山村はなぜ食えなくなったのだろう。
澁澤:
チェーンソー、刈払い機とかが入ったころから変わってきた。生活の質の向上といわれるが、今はすべて貨幣経済に翻訳してしまう。昔の暮らしは仮に給与がゼロになっても生活のベースは自給出来た。
山本:
いろんな森にいろんな生物がいて、山で飯が食えた。そういう暮らしが経済にのみ込まれていく時に何が起きたのか。住宅事情のため山の木を伐ってスギ、ヒノキを植えた。やってしまったオトシマエをどうつけていくかも含めて考える必要がある。山村で暮らすとは?どんなことが求められているのか。
辻:
森に価値を感じてくれる人、山村を応援してくれる人が増えてくれること。森を生き返らせる予算投入も必要。Uターン、Iターンの人が森と関われるようにならないといけない。企業の森を実施し、東京都の品川区民の森として活動している。連携しながら山村を守っていくことが大事。
○誰が何をできるか寺川:
山主さん自身が山の価値を見出しかねている。ただ愛着はある。誰がその価値を考えていくか。山主さんであり、一緒に活動している私たちだったり。それぞれが得たい価値を考え、値段をつけていくことが第一歩。
澁澤:
山村に人が住めるかどうかがポイント。高知の土佐の森救援隊は、農家林家が山の木を軽トラに積んで帰ってきて売る。小さいビジネスはお金だけでなくコミュニケーションをつくるという利点もある。
辻:
林業に携わって山に入りたいという人は多いが、暮らし続けられるか?子供が出来て教育が必要になった時に住み続けられるか?ボランティアで応援してくれるのはうれしいが、NPOになったり、山村で食っていけるようにならないと森はよみがえらない。林業経営も根本的に考える必要がある。
山本:
農業や林業を多様化させると同時に、地域としての生業が必要。アメリカの農家の所得のうち補助金は6割。日本は3割。森とともに暮らしてくれる人の生活を皆で支えていく事も必要となるのではないか。

シンポジウム以降の内容は次のとおり。
■持込み企画(風景)
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テーマ : 環境
ジャンル : 福祉・ボランティア